とまらぬ亀の轍

何をするにも鈍間な筆者が、歩み続ける足跡を綴っていきます。

消化管運動疾患専門外来

51歳で初めて消化管運動疾患専門外来を開始してから2年が過ぎました。
 
そもそも完治が見込め無い疾患が多く、他院で検査や治療等やり尽くした後である事に加えて、私の英語の駄目さと知識・経験不足もあり「半年以上待ってこれか。時間の無駄だった。」と捨て台詞を吐かれる事がしばしばでした。
 
でも最近は、経験の蓄積と勉強の甲斐があり、待ち時間は一年近くになっていますが、「素晴らしい情報を聞けた。一年待った甲斐があった。」と言って頂ける事が多くなって来ました。
 
新しい環境に飛び込み新しい事を始めるのに年齢を気にする事は意味が無く、幾つになっても思い立った時が始める時だと改めて実感しています。
自分にとっては年齢は単なる数字でしかありません。
必死で頑張れば意外となんとかなるものです。
まだまだ新しい事に挑戦していきたいと思っています。

米国で差別に負けない為に

米国でアジア人が空気のように扱われるという事が話題ですがその通りです。でもそれはアジア人だからと言うより言語と文化の壁がある外国人だから。日本でも愚痴を言い合う飲み会で日本語が不自由な白人が一人混じってたら、初めは気を使うけどその内空気になっちゃうでしょ。同じだと思いますよ。
 
あんまり差別差別と言う事は自分は好きではなくて、それを言う深層心理にはアジア人は劣っているという自虐と白人は優れているっていう劣等感が潜んでいる気がします。白人がそう思うのは白人の勝手ですが、私は長く米国に住んでいて全くそうは思わないし自分の祖国が大好きで誇りに思っています。なのでどんな態度を取られても無知な奴がなんかやってるよとしか思わないし気にしません。他人の考えをこちらが受け入れる必要は全くないですし、他人の態度や考えはこちらからは変えられないし相手の自由なので。
 
但し実害が及ぶ場合があって、暴力だったり受けられるべきサービスが受けられなかったり、そうした事が起こった場合は毅然と主張して戦うべきだと思ってます。それこそが真の根絶すべき差別ですよね。ただ、そういうあからさまな客観的証拠が残る差別は米国ではあまり無い気がします。米国は少なくとも表面上は差別は悪として扱っているので。トランプが復活したらどうなるかは分かりませんが。
 
自分の祖国を好きになって誇りに思うことこそが、米国で差別に負けない秘訣かなと思いますね。
私の個人的な見解ですが。

日本人医師が米国に来た後日本に戻れるのか?

米国での臨床は医療レベルで日本と大きな差はないものの給料とQOLは雲泥の差があるので、日本の医学生が目指したくなるのは良く分かりますが、米国で生き残ると逆に諸々の理由で日本に帰国したくてもできず引退まで米国で米国人の為に尽くさざるを得ない可能性があるという事は知っておいた方がいいと思います。私が観測した帰国できない理由を如何に挙げます。
1. 子供達が米国に馴染んでしまい子供を置いて帰れない。
2. 子供達が米国大学に入学してしまい、学費捻出の為に日本には帰れない。
3. 米国は医療の細分化は激しく、細分化した診療科に特化してしまい日本に適切な診療領域がなく帰れない。
4. 米国人と結婚して家族を作ったので帰れない。
5. 米国の給料とQOLに馴染んでしまい、日本の薄給、激務には帰れない。
6. 外科系のチーム医療の科で医局との繋がりが無い場合、帰って腕を振るえる場所がない。
7. 卒業後早期に米国に来た場合、知識や技術を全て英語で米国式に覚えている為、日本の医療に適応できず帰れない。
そもそも帰りたくないという方々も多く見かけますし、帰国したくない子供と帰国したい奥様の板挟みで苦しまれている方々や、結局離婚して家族がバラバラになってしまった方々もお見受けします。
長い目で見れば、必ずしも米国に来て幸福になれるとは限らないと言う事は知っておいて欲しいですね。

家庭医が新規患者を受け付けない?

50歳も過ぎたのでそろそろいざという時の為にかかりつけ医を持っておこうと思い予約しようとした所、「現在家庭医は新規患者を受け付けておりません。」というパワーワードを頂きました。と言うわけでかかりつけPhysician assistant(日本語対訳が思いつかない。)を持つ事になりました。

 

一体どう言う事なのか?

 

米国の医療に関わった事がない日本の皆さんには意味が分からないかと思いますので解説させて頂きます。

 

米国の外来診療はざっくり分けて緊急対応する部門と予約診療する部門に大きく分けられます。緊急対応する部門はさらにUrgent careとEmergency departmentに分けられるわけですが、ここでは細かい所は割愛します。予約診療する部門はさらにかかりつけ医、つまりPrimary care provider (PCP)とSpecialistに分けられます。

米国の外来診療の立て付けとして、定期的にPCPに診てもらい何かPCPでは手に負えない専門的な診察が必要な問題が生じた場合、Specialistにコンサルトし、Specialistが診察をした後その指示に従って長期の投薬等に関してPCPが管理していくという形になっています。つまりSpecialistはコンサルト業務や専門業務を行い、PCPはSpecialistの指示を受けつつその患者さんの全身の健康管理を行なってくれるマネージャー的は存在になります。

 

このPCP業務を行う人々は、Familial medicineを専門とする家庭医だけでは無く、Physician assistant(PA)といって医師の監督の元に診療を行う専門職や、Nurse prectitioner(NP)といってPAと比較してより独立して診療を行える専門職の方々がいらっしゃいます。州による違いは色々ありますが一般的にPCPとしてできる事の範囲が、MD>NP>PAとなります。つまり、MDならPCPとして診察から治療までしてもらえる疾患をNPやPAだとSpecialsitにコンサルトされる事になり、時間とお金がかかるという状況が生じてくる可能性があります。もちろんこれはNPやPAの能力に依存する事で、能力の高いNPやPAも沢山いらっしゃりあくまで全体としてのお話です。実際私は、胃酸を抑制する薬であるプロトンポンプインヒビターという薬局で自由に買えるお薬をPCPが処方してくれないという理由で私が処方しているという患者さんを複数抱えていますが、こういう場合PCPはNPやPAです。

 

漸く本題に入りますが、PCPも当然の事ながら予約制です。なので田舎でPCPの数が限られているとMDの予約枠から順に埋まっていき、NPだったりPAにPCPをお頼みするという状況に陥ります。今私が住んでいる地域がまさにそういう状況で、私はMDの予約を取れずPAにPCPをお願いしたという話です。

 

米国では予約診療を行うPCPやSpecialistは基本予約外を全く受け付けませんので、予約枠が埋まってしまばもう新規の患者を受け付けません。

 

ピアノの先生と同じですね。

米国消化器内科は人手不足。何故か?

私の印象として米国で消化器内科医が足りない理由は、
1. 内視鏡デバイスの開発で内視鏡でできる事が格段に増えた。
2. 政府が45歳から内視鏡による大腸癌スクリーニングを保険会社の負担で患者に対して無料にしたため、全国民が大腸内視鏡を受けるようになった。
3. 内視鏡検査は質の担保が難しく、やればやるほど病院が儲かる仕組みなので、どの病院もこぞって消化器内視鏡医を増やそうと躍起になっている。
4. 一方米国はどの科もなりたい人がなれる訳ではなく、人数が制限されたフェローシップを勝ち取ってトレーニングを受け専門医の資格を取らなければその科の医師になれない。
5. 上記1-3の流れが読めず、フェローシップの枠の拡大が遅れているのと、そもそも質を担保するために簡単には増やせない。指導も大変なので。
6. 結果として、給料が高騰し引き抜き合戦が起こり、教育、研究、臨床を担う大学は給料を増やせない為、アカデミアの消化器内科医が人数不足で苦しむ事になっている。
という構造であると考えています。
 
では、日本人の内視鏡医が簡単にスタッフとして入り込めるかと言うと、そうはなっていません。
理由は、
1. 大学である以上アカデミアの実績を求める。
2. いきなりスタッフとして入る以上、独立して最新の診療を行える能力とFellowを指導する能力が求められる。
3. 米国の就労ビザをとる上で、米国人にはない能力を求められる。
4. 米国は何よりコネクションによる信頼性を重視するので、何処の馬の骨ともわからない日本人がいきなり応募しても、書類を読んでさえ貰えない。
 
実際、弊大学も人が足りなくて困っているものの、海外から就活をしてもほぼほぼ無視されます。
ただ現在は私を含め日本人が3人いますので、内部の人間である私から強烈にプッシュすることで、書類に目を通してもらい審査の土俵に乗るまでアシストすることが可能という話です。土俵に乗った後の大学の審査まで関与することはできませんので、そこから先は業績と本人次第という事になります。
実際に今働いている方の一人は私が強烈にアシストすることで、審査の土俵に乗り、見事にポジションを勝ち取りましたし、私も、以前から働いている日本人医師が私の部活の後輩だった為、審査の土俵に上げてもらう事ができ、結果として今のポジションを勝ち取りました。
 
日本の大学で講師や准教授をしている事と米国に来て0から再出発する事を天秤に掛けると、どちらがその方の人生にとって良いのかは人それぞれだと思います。
ただ、たった一度きりの人生ですので、挑戦する事で多くの経験を積んで人生を豊かで面白いものにするのも良いんじゃないかなと個人的には思っています。
もしも挑戦したい方がいらっしゃいましたらDMを頂ければと思います。

アメリカで医師として働く事に興味がある日本の大学所属の消化器内科の先生へ

University of Iowaの消化器内科は万年人が足りてないので、下記の条件を満たす日本人の先生ならいつでもチャンスがあります。
 
条件は、
1. 日本の大学で教官を五年以上で専門医取得済み。
2. 論文をファーストかコレスポで平均年一報程度。
3. 英語力はTOEFL 80以上。
4. 米国医師免許は不問。
5. ERCPができるなら完璧。
6. どん底から這い上がる情熱。
 
この全てがあればかなり確率は高いと思いますが、選考するのは大学側ですので成功の保証はできません。
ちなみに給料は日本の約4倍でオンコール以外土日休みで臨床業務は原則8時開始5時終了です。研究費がなくても週一日研究に当てられ、研究費が取れればさらに臨床を免除され研究ができます。
研究レベルは非常に高いです。
治安は良く、公立学校のレベルは高く、子育てには最適の環境です。
どちらかの大学消化器内科医局でうちに医局員を派遣する事に興味がありましたら、三年毎位で交代で来ていただくと言う形を他科ではとっている所もありますので、可能性はあると思います。ただ、上記条件は変わりません。
ビザとしては詳細は詰めなければいけませんが、J1かH1Bになるかと思います。
興味のある方はXからDM下さい。

人生とは

一人の人間の価値はその人の人生を通じてどれだけの人々が幸せになったかで決まる。有名な発明家や音楽家、科学者が偉大なのは死後百年以上経っても人々を幸せにし続けているから。学歴?年収?財産?そんなものは偉くもなんともない。自己満足。死ねば全部消え失せる。他人の為に生きてこそ人生。